懐疑派blog

2004/06/15

朝日新聞 社説

■朝日新聞 社説

 それにしても、と思う。この1年、現実はどんどん先に進んでしまった。憲法の解釈を広げることによって、戦争が終わらないイラクに自衛隊が送られた。その自衛隊が今度は多国籍軍の一員として駐留を続けるという。武力行使に加わらなければ問題なしと小泉首相は言うが、こうした乱暴な運び方には自民党内でさえ疑問の声があがっている。

 有事法制にまつわる心配もここにある。法律がいかに立派でも、その善しあしは政権のさじ加減で決まる。そうした見方からすると、首相や与党の姿勢は深く憂慮せざるを得ない。

 日米同盟のためなら何でもしていいというようなやり方だけではない。お上に逆らう意見や考え方は許さないという昨今の風潮も、ひどく危なっかしい。

 イラクで人質になった日本人に対して、与党や与党寄りの新聞などが迷惑だと言わんばかりの批判を浴びせた。彼らが自衛隊の派遣に反対だったことを取り上げて、国会で「反日的分子」と呼んだ自民党議員さえいる。そんな日本人が外国でどうなろうと、国家として保護するに値するのかという議論である。

 北海道の自衛隊の第11師団長が、イラク派遣に反対する市民の活動が目に余れば雪まつりに協力できない、と隊員に訓示した。東京では、市民団体の3人が防衛庁官舎の郵便受けに自衛隊派遣反対のビラを投げ込んだだけで逮捕され、75日間も勾留(こうりゅう)される事件が起きた。

 思想や信条にかかわりなく、国民を分け隔てなく守る。それは近代国家の基本的な役割だ。有事法制も当然そうでなければならない。守るべきは国の主権や国民の生命、財産だけではない。少数意見が大切にされる民主主義の社会を守ることができるかどうかが重要なのだ。

 政治をきちんと監視する。国の安全を任せられる議員を国会に送る。異論を大事にする。そうやって日頃から民主主義を鍛えておくことが、いざという時、有事法制をお上ではなく国民のために使うことにつながる。できあがった法制を前に思うべきはそのことだろう。