岩見隆夫
岩見隆夫「近聞遠見:年金は「最大争点」ではない」
5党の党首は口をそろえて、参院選最大の争点は、
「年金だ」
と言うが、そうだろうか。
有権者は当然のことながら年金問題に強い関心を寄せている。だから政党側も争点の中心に据えて訴えようとする。
そこまではいいが、争点になっているかどうかは、有権者がこのテーマで政党を選択できるか、にかかっている。争点化の成熟具合だ。
先の通常国会の論戦、党首討論会の発言、遊説第一声などを聞いてきた総合評価では、およそ政策争点になりえていない。ボクシングにたとえれば、試合前のジャブか場外乱闘か。
第一声で、小泉純一郎首相は、
「年金は40年、50年、60年続いていかなければならない。だから与野党を超えて、政権が交代しても維持できる制度を作らなければなりません」
と訴え、民主党の岡田克也代表は、
「年金制度の改悪を阻止して、本当の意味の抜本改革をやることです」
と言うのだ。ほかの党も似たようなものである。ご趣旨はもっともだが、これで政党の選択ができるはずがない。
党首討論会も、政策論争ではなく、今後の議論のやり方をめぐる応酬ばかりで、歯がゆかった。与野党協議の進め方をどうするか。
「各党が方向性を決めずに議論しても先送りになるだけだ」
と岡田が言えば、小泉が、
「前もって方向性を決めると、議論がやりにくくなる」
と反論する。小学生的な次元で、話にならない。小泉は方向性を出すのを忌避しているみたいにも聞こえる。
年金目的消費税の導入問題もそうだ。在任中は消費税を上げない、と明言している小泉に、それでは議論が制約される、と問うと、小泉は、
「議論は大歓迎。しかし、このなかで、2年の(私の任期の)間に消費税を上げると言える人がいたら、手を挙げていただきたい。そんなばかげた党首はいないと思う」
と論点をずらしていく。目的消費税の是非には触れようとしない。一元化問題も、小泉は
「一元化を含む社会保障全体のあり方を協議し……」
とぼかす。議論とか協議とか、そんな単語を何百回聞いても、何の参考にもならない。
第1党がこの調子だから、各党の議論も熟していかない。わかりにくいこと甚だしく、有権者は確実に迷う。年金は××党、と自信をもって選択できる有権者はまずいない。
わかりやすい主張がないわけではないのだ。たとえば自民党の政策通、野田毅元自治相の新著「消費税が日本を救う??年金、財政、経済問題、これで一気に解決する」(04年2月刊・PHP研究所)をみると、
<基礎年金、老人医療、介護の社会保障基礎3分野と少子化対策を加え、必要な国費年間13・4兆円(03年度当初予算ベース)に消費税を充て、税率を当面8%に引き上げる。10年後は15%、少子高齢化のピーク時は20%を想定している>
と提言している。これが最善の策かどうかはともかく、わかりやすい。具体的な政策として賛否の対象になりうる。
野田は、
<小泉さんが「私の内閣の間は消費税は上げません」と言ってしまったために、最も核心に触れる部分に踏み込むことを避けて議論が流れ、有効、的確な政策対応ができない。野球で言えば、ホームベースにふたをしているようなものだから、いくらヒットを打っても点が入らない>
とも書いている。